コロナ騒動について今思う事(その2) (2020-05-07)

 GWまでとされていた緊急事態宣言が、予想されていた通り5月31日まで延長されました。13の特定警戒都道府県以外はそれぞれ地域独自の休業要請の見直しを図る動きや、大阪府では独自の「大阪モデル」という解除に向けた数値目標を明確に定めて対応するという試みも報じられています。

 他方で「GWまでが自粛の限界だった」という中小零細企業の存在も多数報道されるようになり、感染症によって失われる命と経済の崩壊によって失われる命をどのように考えてどうしたら最小限に抑えられるかという議論もようやく始まりつつあります。

 政府は新型コロナ対策専門会議の提言を受けて緊急事態宣言を延長しましたが、そもそもこの会議のメンバーの人選はどのような経緯で決まったのか、この会議のメンバーは何をもって期間延期が望ましいと結論付けたのか、メンバー個々の会議での発言を全て開示し、その妥当性を全国民に問うくらい重要な決定ではないでしょうか。

 期間延長の記者会見の際もおもに「新規感染者数」を用いて理由を説明していましたが、新規感染者数はPCR検査数に依存しますので大きな論拠にはならない事は誰の目にも明白であると思います。諸外国では「実効再生産数」が有力な判断の指標になっていますが、日本ではあまりにもPCR検査数が少ないため正確な数値が出せなくなっています。

 クラスター対策班の西浦博教授は国民の80%が感染するとか、40万人が死亡するとかとんでもない恐怖なシミュレーションを発表して話題になっていますが、その論拠となる数理モデルやパラメータを一切公表していません。PCR検査が絶対的に少ないために把握されている感染者数や死亡者数のオーダーも信頼できる状況でないのにシミュレーションの数値だけ信頼せよというのは極めてナンセンスな話です。

 日本はPCR検査体制が整っておらず、また陽性患者が大量発生した場合に医療機関の受入体制も脆弱だったために、クラスター班による集団感染(クラスター)対策を行ってきましたが、集団感染をつぶすことができませんでした。理由は感染者が見つかった際に無症状の濃厚接触者のPCR検査をしていなかったからです。最近の新規感染者の多数を占める院内感染は起こるべくして起きていると考えられます。なぜなら無症候患者が感染者と知らずに外来受診や入院をしたりするのですから制御など不可能と言えます。

 少し前の報道になりますが、神戸市立医療センターの一般外来受診者を対象に1000人の抗体検査を行ったところ全体の3.3%で陽性を確認したという報告があります。この数値はPCR検査で把握されている患者数の594倍にあたるという事です。この試算を前提に考えると諸外国に比べ、日本では重症者や死者の割合は格段に低いと考えられます。

 このような事実を踏まえて冷静に考えれば、日本でも緊急事態宣言からの出口戦略を早期に議論する段階に入っていると思われます。数値目標は当てにならない新規患者数ではなく受入医療機関の逼迫度のみでも構わないのではないでしょうか。受入可能病床数(一般・ICU別)とスタッフに十分な余裕ができたら、近い将来に予想される第2波・第3波に対する環境整備(例えば重症者専用の施設確保)を行いつつ、可能な限り早期の経済活動制限の解除を行うべきではないでしょうか。

 2018年の日本国内のインフルエンザ死亡者数は3325人でした。それでも経済活動の制限は特に行っていないのはインフルエンザによって失うものより経済活動の制限で失うものが大きいという判断をしているからです。不況によって確実に人の死も増えるのです。日本の自殺者数のピークは2003年の30,4427人(経済問題を原因とした自殺者は8,897人)、失業者数のピークは2002年の359万人であり、自殺者増加の時期と一致しています。今回の緊急事態宣言に伴う経済活動の制限によって、6日で解除された場合の失業者36.8万人がさらなる延長で77.8万人になると第一生命経済研究所では分析しています。

 リーマン・ショックの翌年に「失業・生活苦」を動機とした自殺者は2802人(警察庁自殺統計)でした。今回の緊急事態宣言による経済への影響が深刻化すれば、感染による死者を大幅に上まわる自殺者が出ても不思議ではありません。感染症よる死者を減らすことができたとしても、経済的な死者をそれ以上に増やしてしまったら感染症との闘いに負けたことになってしまいます。

 自粛生活のストレスのせいで、私たちに不安と不満と恐怖が拡がっています。感染症以上に心の問題があります。例えば営業中の店に脅しの張り紙を貼ったり、店員を怒鳴りつけたり、県外ナンバーの車をSNSで晒したり・・・でもこのようなことをしている人々も必ずしも日頃から乱暴な人ではなかったのだと思います。その動機は防衛本能であり、多くは家族愛や郷土愛なのです。何とか自分たちを守りたいと行動します。その結果、攻撃的になってルール違反者に厳しい「コロナ警察・自警団」が生まれます。さらに攻撃対象はしばしば弱者に向かいます。自分に歯向かわず法的に訴えない相手です。しかし彼らとしては正義に基づく行動なので攻撃によってストレスも減るという厄介なことになります。

 このような住みにくいギスギスした世の中にならないように、また不況で暗い世の中が続いて不幸な自殺者を生み出さないように、国民すべてがこの「感染症と経済」の問題と冷静に向き合って、社会に対して自分自身としての考えをきちんと持って主張できるような世の中になってほしい・・・今回の災難はこのような民主主義の基本みたいなものを痛みとともに教えてくれた側面もあるのではないかと私は考えています。

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