ワクチンについて (2021-01-18)

ワクチンについて

 来月あたりから日本でも新型コロナウイルスのワクチン接種が開始されるというニュースに注目が集まっています。供給されるのはファイザーとモデルナのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンとアストラゼネカのウイルスベクター(アデノウイルス)ワクチンの3種類です。ファイザーと独ビオンテックが開発したワクチンは95%の有効性、他社も90%以上の有効率があると発表しています。

 では安全性はどうでしょうか?ワクチンの副反応には大きく3種類あります。1.即時あるいは接種数日以内に出現するもの2.2週から4週経過して出現するもの3.ワクチン接種者が将来感染した場合に出てくるものです。

 1.はアナフィラキシーと呼ばれる全身に出現する重篤なアレルギー反応が典型的な例です。皮膚のかゆみや腫脹、眩暈などの症状から始まり血圧が低下して意識障害を生じて最悪の場合は命を落とすこともあります。だたし通常は接種後20~30分程度は経過観察のため医療施設内で待機してもらいますのでアナフィラキシーは問題なく救命できると判断して差し支えありません。接種が開始されている欧米では既に数例のアナフィラキシーショックが報告されていますが大事には至っていません。

 2.の遅い方の副反応は、脳炎などの神経障害や末梢神経が麻痺するギランバレー症候群などがあります。今回のワクチンは接種が始まったばかりですからそのような部分は未知数といえますので今後を注視する必要があります。

 3.の副反応はADE(抗体依存性感染増強)と呼ばれるもので、ワクチン接種後にいわゆる悪玉抗体ができて新型コロナ感染症が悪化してしまうというものです。臨床試験のデータではワクチン接種群に10人程度の感染者しか出ていないので、ADEのリスクを判断するのは現時点では不可能です。

 次に効果の持続性という点ではどうでしょうか?臨床試験の追跡結果からは接種から3~4か月の経過では抗体価はまったく下がっていないとされています。ワクチンの効果はゆるやかに減っていくことが普通であり、今回のワクチンの効果は半年から1年程度は持続可能であると予想されることから今回のワクチンはかなり優秀と判断されます。

 ワクチンの接種が順調に進めば、現在のウイルスが蔓延してしまっている状況を改善する効果がもたらされるのは確実だと思われます。もちろん未知数な部分もありますが誰もが未経験な事態なのですからそれを過剰に恐れるのは意味のない事だと思います。現在いちばん危惧されるのは過去に起きた「子宮頸がんワクチン」の事例のように一部のマスコミが(支障がありますのでどこの新聞社とは言いませんが)、接種との因果関係の検証もないまま有害事象と称してセンセーショナルな報道を繰り返し、せっかくの頸癌撲滅のチャンスを潰してしまったのと同様な事が起こるのではないかという事です。現在はWHOも子宮頚癌ワクチンとの因果関係なしと正式にアナウンスしていますが、この騒動によって残念ながらワクチンが広く普及しなくなってしまった結果、先進国のなかで唯一3000人以上の頸癌による死亡者を毎年出してしまう不名誉な国になってしまったのです。

 今回のワクチンでも何かしらの副反応は起きる事が想定されます。国民の大半を想定した多数の接種をするのですから何も起きない筈がないと言えるでしょう。そもそも薬やワクチンはそれによって得られる利益が不利益を大きく上回るから使用を許可されるものであって、医療は「ゼロリスク」という概念の下では成立しません。ただ一部の国民は過敏に必要以上に恐れる事は最初から想定されますので、政府はきめ細やかな補償についての具体的方策を確定し公表する事と、有害事象が生じた場合の速やかな情報開示と原因究明を真摯に説明し理解を求める必要があると思います。マスコミも冷静にかつイデオロギーにとらわれない報道に努め、ペンによる暴力は謹んでいただきたいと思っています。

 最後にワクチンは全員が接種を受けなければならないと強要するべきものではなく、あくまでも個人の自由意思の下に接種の判断がなされるべきものだと私は考えます。

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