特措法改正で厳罰化は正しいのか? (2021-01-18)

特措法改正で厳罰化は正しいのか?
 
 政府は次の通常国会への提出を目指し感染症法の改正作業を進めています。知事の入院勧告を拒否した新型コロナウイルスの感染者に最高で懲役1年または罰金100万円まで科せるような罰則の創設を想定していると報道されています。

 感染症法には「国及び地方公共団体は感染症の患者等の人権を尊重しなければならない」という規定が置かれています。この種の罰則規定の場合は濫用防止の観点から「正当な理由がないのに」といった縛りをかけるのが通例となっています。

 このような状況下、国内136の医学系学会が加盟する日本医学会連合が1月14日、罰則の導入に反対する声明を出しました。「感染症法等の改正に関する緊急声明」にはかつてハンセン病やエイズに対し差別や偏見が広がり、結核やハンセン病の強制隔離で患者の人権が侵害された歴史を踏まえた上で刑事罰や罰則を伴う法改正を行わないように求めています。

 日本公衆衛生学会と日本疫学会も同じく1月14日に同様の反対声明を出しました。「感染者とその関係者の個人情報等の人権が守られ、感染者が最適な医療を受けられることを保証するため」として次の4点を求めています。①感染症の制御は国⺠の理解と協⼒によるべきであり、法のもとで患者や感染者の⼊院強制や検査・情報提供の義務に刑事罰や罰則を伴わせる条項を設けないこと。②患者や感染者を受けいれる医療施設や宿泊施設が⼗分に確保された上で⼊院⼊所の要否に関する基準を統⼀して⼊院⼊所の受けいれに施設間格差や地域間格差が無いようにすること。③感染拡⼤の阻⽌のために⼊院勧告や宿泊療養・⾃宅療養の要請措置の際には、措置に伴って発⽣する社会的不利益に対して就労機会の保障や所得保障・医療介護サービス・その家族への育児介護サービスの無償提供などの⼗分な補償をおこなうこと。④患者や感染者とその関係者に対する偏⾒や差別⾏為を防⽌するために適切かつ有効な法的規制をおこなうこと。以上きわめて重要な要件と思います。

 感染症には差別や偏見がつきものであるのも歴史が証明しており、感染症法にも前文に「我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である」とわざわざ記されているほどです。

 罰則規定の創設は「感染者たたき」の格好の材料となります。自粛生活で溜まった憂さ晴らしを目的に、勝手な正義感による「自粛警察」がまたみられるようになることは容易に想像できます。しかしウィルスは人を選べないので「明日は我が身」誰が感染しても不思議ではないのでいつ自分が攻撃される側になるかもしれません。このような状況下で感染者を攻撃するという事は、差別や偏見ひいては刑罰を避けるための「感染隠し」がかえって感染を広げる事態につながるかもしれません。

 外界のリスク対して自ら回避するための鍵をかけるのか、権力に手足を差し出して縛られる事で守ってもらう事を容認してしまうのかというのは民主主義の根幹に関わるゆゆしき問題だと思います。日本民族は欧米のように革命で自由を手に入れた経験がなく敗戦によって自由を与えられた特殊な民族であるがために、このあたりの危機感が薄く世論の反応が危うい点が自分としてはたいへん危惧している部分であります。

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