よく「失われた30年」という言葉がメディアで使われますが、それは下記のグラフ1の「低成長期(経済成長率0.8%)」を指して使われます。
日本は戦後の焼け野原から10年を経た復興期(高度成長期)に爆発的な経済成長を経験しました。この経済成長の原動力は①全てが破壊されゼロからのスタート(既得権益に邪魔されない)であった事②朝鮮戦争特需③復員した旧日本兵の影響による出生率上昇(団塊世代)④貧困から脱出したい国民の強い勤労意欲⑤1ドル360円の固定相場(円安)による好調な輸出などが要因であると言われています。
そして1973年のオイルショックが先進各国に深刻な影響(スダフグレーション)を与えたのですが日本はこの状況から最も早く脱出し安定成長期に移行することができました。
しかし1980年代後半のバブル崩壊をきっかけに現在まで続く低成長期へと移行してしまいます。バブル崩壊は詳細に解説されている成書がありますのでここではごく簡単に触れるに留めますが、貸金業があまりにも担保価値を土地に求めたため「総量規制」をきっかけに不動産価格が下落し不良債権が積み上がり金融機関の破綻が相次いで信用収縮から貸し渋りや貸し剥がしによって企業業績が悪化するというドミノ倒しのような現象でした。
日本政府はこの状況下に景気を下支えするための公共投資を積極的に行わなかったばかりかむしろ緊縮財政政策に舵を取ったため、国内の主要な製造業は日本での設備投資を控えて工場を人件費の低い海外に移転させてしまい(産業の空洞化) 雇用と税収の減少や技術の海外流出を招き日本の優位性がますます低下してしまいました。
そしてこのデフレ不況に止めを刺すかのように2003年の小泉内閣による「労働者派遣法改正」により禁止されていた製造業・医療業務の派遣が解禁されてしまい、基幹産業である製造業は非正規でも良いとなりました。企業側は人件費が正規雇用の半分以下で雇用できる非正規の派遣社員に傾斜していくのは当然であり、就職氷河期(団塊2世)やワーキングプアという言葉が生まれ現在までこのデフレ不況による日本の貧困化は続いています。
下記の表1に①ひとり当たり②時間あたり③製造業における労働生産性を示しますが、①がOECD加盟38か国中31位の$85,329②が30位の$52.3③が18位の$94,155であり、とても先進国と呼ばれる数値ではないことがはっきりとわかります。
製造業の労働生産性の低下は長引く不況により企業が内部留保を確保して必要な設備投資(機械化やIT化)を怠った(できなかった)事が大きな原因と言われています。また研究開発費・特許・商標・ブランド育成などの非物質的資産(無形資産)の形成にもあまり積極的な関心を示さなかったために、一時は半導体大国と言われていた日本にもかかわらずGAFAのようなIT分野においても完全に凌駕されてしまっています。
また日本では製造業の空洞化によって産業の主力が第2次産業から第3次産業に移ってしまい、現在では70%を超える労働人口が第3次産業に従事していることも大きな問題点と言えると思われます。サービス業ではいくら機械化や省力化を進めても製造業のような劇的な労働生産性の向上は期待できません。人間を相手にする職業では簡単に高付加価値を生み出すことが困難なのは医療や介護の世界を考えたら容易に理解できると思います。
医療や介護は典型的に労働集約的であり、特に介護は「介護を受ける人の満足度をいくら高めてもその人は将来的にもずっと消費のみで今後の生産力を期待できない」という特性を持っており、最初から労働生産性という物差しで測るのはそぐわない業態です。
その他のサービス業もほとんどが国内完結型であるため、現在国内にある資産がある程度の利潤を上乗せして国内を回遊するだけでGDPに対する寄与率は製造業とは比べ物になりません(インバウンド消費を除く)。
この国を立て直すにはやはり生産性を高くするための生産設備とIT化を有した良質な製造業の国内回帰が必須であり、政府はそのために税制面で優遇策を講じプライマリーバランス(PB)に拘り過ぎず必要な出費をするべきだと思います。それから非正規雇用の悲惨な現状(人材派遣業だけが儲かる中抜きシステム)を見直して生涯安心して労働できる環境を整えることも極めて重要であると思われます。
政府には経団連や経済同友会などの外圧に屈せず(創業家社長以外はどうせ自分の代だけ平穏無事ならどうでもよい思考を持ったお歴々ですから)抜本的な改革をぜひ期待したいと強く思っています。
グラフ1.

表1.


