民主主義と日本の進むべき方向を考える(私見)

2025年はスタートから私たちを取り巻く世界情勢が混沌とした状態が続いています。ロシア・ウクライナ戦争は停戦を見据えてますます激化していますし、台湾有事もより現実味を帯びてきています。

これらの現象の表層だけを捉えれば「民主主義と独裁主義・権威主義との対立」と見えるかもしれませんし、西側諸国の民主主義国家が中露に代表される権威主義国家やイスラム諸国のような宗教国家やテロ組織の脅威に晒されて「民主主義の危機」のように見えている方も多いと思います。

ですが「民主主義の危機」は果たして外部からの脅威だけがもたらしているのでしょうか?先日のアメリカ大統領選挙の様子を見てもわかるように本当の危機というのは実は内部にこそあるのではないか?と私のように思っている方も少なくないのではと思います。

民主主義は西側先進国においては当たり前で当然の政治制度とされてきました。戦後GHQの統治を経た日本においても民主主義に異を唱えるなどは極めて不見識とされてきました。そして外部からの敵対者、例えば独裁政権や軍事政権やイスラムのような宗教国家を排除すれば安泰であると長年しごく単純に考えられてきました。

しかし先日のアメリカ大統領選挙のトランプ現象を詳細に振り返ると見えてくるのは民主主義という制度そのものが限界を迎え内部崩壊し始めているのではないかという疑いです。
よくアメリカ社会の分断が起きているという言葉を耳にしますが、アメリカ社会の分断と相互不信が言論による相互承認的合意が形成不可能な状況にまで陥ってしまったのは次のような要因があると考えられています。

① 多様性(LGBTや移民)をポリティカル・コレクトネス(political correctness)とまでに政治的に是としたリベラル派(民主党)と反対する保守派(共和党)の対立の過激化。
② 市場がグローバル化したことによる一部のグローバルエリートへの富と権力の集中に対しラストベルト地域の製造業に従事する白人労働者層の不満が爆発した。

このようにトランプ現象というのは経済的成功者であるリベラル派(シリコンバレーの住人は主に移民である)が経済的格差だけでなくポリティカル・コレクトネスにまで口出しを始めたため、かつて豊かな中間層であったが現在は貧困層に転落してしまった保守的思考の白人労働者層とリベラル的思考の支配者階級(グローバルエリート)が経済格差だけでなくイデオロギー的な面でも決定的な対立を生じた結果であると考えられます。

同じようにEU諸国においても反移民を掲げる「極右政党」が勢力を増しつつあります。これもアメリカ同様にあまりにもリベラルな移民の受入れによって移民と市民との間に生じた軋轢がきっかけとなり、移民との競合によって仕事を奪われ労働条件が悪化することで貧困化してしまった労働者層の不満が「極右政党」の躍進を生み出したと考えられます。

このような経済格差と政治思想で市民が分断されることにより、民主主義という政治制度が内部から崩壊してしまいそうな現在の状況は果たして是正できるものでしょうか?
民主主義制度の機能には生活様式や価値観を共有する厚みのある中間層が不可欠であることは古代ギリシャやローマの歴史が証明しています。

古代ギリシャではブドウ酒とオリーブにより農民(市民)は豊かになり、各ポリス(都市国家)における行事や政治に積極的に参加し奉仕する善良な存在(厚い中間層)となり政治的発言力が高まり民主政治(成年男性市民の全体集会で多数決により国家の政策を決定する)が誕生しました。しかし30年にわたるペロポネソス戦争により農民(市民)は没落し小作人や奴隷に転落し、貴族や大商人との間に圧倒的な経済的格差が生まれ、富裕層と貧困層の対立から暗殺や追放が横行し国力が衰退してマケドニアに滅ぼされます。

古代ローマもギリシャ同様に豊かになった農民の重装歩兵によるイタリア半島統一を果たし、護民官という役職・リキニウス=セクスティウス法・ホルテンシウス法などが制定され平民がローマ政治の執行役となりました。
ところが地中海全域にわたるポエニ戦争が100年以上続いたためギリシャ同様農民の没落が起こり、加えて拡大した領土を統治した貴族や富裕層が捕虜にした敵兵を奴隷労働させて安価な食糧が大量にローマに流入したため、ローマの軍事・経済・財政の中心であった豊かな中間層は無産市民となり国家分断による内乱の1世紀へと突入してしまいます。

このような歴史が示すように、現代にみられる経済活動の極端なグローバル化による経済成長至上主義的な傾向が高まるほど経済的格差(ごく一部の勝者と多くの敗者)を生み出してしまい、安定した中間層という社会的な緩衝材ともいえる存在が消滅してしまいます。結果として中間層から貧困層に落ちこぼれてしまった一般市民の不満がイデオロギー的な対立や移民問題の争いとして噴き出すことにより民主主義制度を内部から破壊する可能性が現在において極めて高くなりつつあるのではないかと考えられます。

加えてこれら多くの経済的敗者の立場に落とされてしまった大衆を味方につけようとする政治家は選挙に勝つためにはポピュリストになるしかなくなりますが、先日の都知事選や兵庫県知事選でSNSが大きな影響力を持ちつつある現状において、このポピュラリズムを利用したデマコーグ(扇動家)の登場と独裁者の誕生(ナチスの再来のような)という危険性をはらんでいる可能性も考えておかないといけないと思います。

もともと民主主義と資本主義というのは水と油の関係です。そのような矛盾した存在の二つの制度を資本主義によって経済全体のパイを増大させながら民主主義によって極端な富の偏在を抑えるための再分配をおこなうという困難な運用を知恵を絞り試行錯誤を繰り返しながら維持してきたのが民主主義国家なのです。資本主義における正義を追求すると貧富の差につながりますが、民主主義における正義を追求すると身分や貧富の差にかかわらない平等となり、この2者は真逆の思想といえます。

この矛盾をわが国では累進課税制度・固定資産税・相続税・国民皆保険制度・年金制度・生活保護制度などさまざまな手を用いてごまかしなだめつつ運営してきました。ところが近年においては急速な世界経済のグローバル化の波に襲われ、世界で最初の少子高齢化と人口減少社会を迎える国家となり、この矛盾した2つの制度をいかに維持するかが大変難しい局面を迎えています。

失われた30年の前には世界を席巻しジャパン・アズ・ナンバーワンとまでいわれていた経済もバブル崩壊後の経済政策の失策(緊縮財政や消費増税)による景気の長期低迷や日米半導体協定が端緒の半導体産業の衰退などさまざまな要因で低迷を続け2024年においてもG7で唯一のマイナス成長となっています。

しかし人口減少と生産労働人口による経済規模の縮小・高齢化による社会保障負担の増加は避けることのできない現実ですし、いくらDX化による生産性向上を図ったところでGDPという指標で他国と争うのは無理(というよりいい加減止めたほうがよいのでは?)と個人的には考えています。

果たしてGDPが大きい国やGDPの成長が著しい国が本当に幸せなのかと考えてみると実際はそうでないことが少なくありません。さすがにGDPの大きな国は先進国といわれる国々なので中国以外はほとんど民主主義国家ですが、個々の国家によって社会保障の手厚さは異なるので第一位のアメリカであっても都市には路上生活者が多数存在し治安も決して良いとはいえません。GDP成長率順位の上位は主に新興国であり権威主義国家や独裁主義国家が多数並んでいます。GDPは国民の幸せを示す指数ではないのです。

独裁主義国家や権威主義国家が即断即決で動けるので民主主義国家のように小田原評定で時間がかかって何も決まらない民主政治よりも効率が良いのは事実です。ですからGDP成長率上位の新興国は民主主義国家が少ないのだと推測されます。有能なひとりの指導者による政権運営が理念上最も望ましい形態ではあるのですが、現在に至るまで独裁政治からはヒトラーやスターリンのような悲劇しか生まれていません。チャーチルの「民主政治は最悪の政治形態といわれてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けば」という箴言がこのことを上手く表現した言葉として有名です。

改めて日本に話題を移しますが、現在世界で最初の少子高齢化と人口減少という難問を迎える国家としてどのようなかじ取りをするのか世界が注目しています。そして先進国の全てと中国が近い将来に同じ状況に置かれることが既に決まっています。ここで日本がどのような政治的選択をして生き残りを図るのかは大変重要です。

日本はこれからも世界を相手にグローバルな経済活動を継続してゆかなければなりません。エネルギー資源に乏しく食料自給率の低い日本はまずこれらのグローバルサプライチェーンを確実に確保することが最重要課題ですし、緊張が続く東アジア情勢に対応できる自衛力の強化も喫緊の課題です。

その上でグローバリスト達の言う世界標準というものに囚われて必要以上の競争をすることなく、日本民族として最も居心地の良い民主主義と資本主義のバランスを模索して欲しいと個人的には思っています。経団連が主張するような人口減少を移民等で補って無理やり経済規模を維持するのではなく、人口減少に伴う経済規模の縮小や不利益はある程度までは覚悟して受け入れた上で日本民族として「誇り高き衰退」という選択肢も検討するべきではなかと考えます。先述したようにGDPは幸せの指標ではありません。

例え経済規模は大きくなくても、主権国家として揺るぎない独立性を保ち、民族として宗教観や歴史観を大切にし、治安の維持された美しい日本国をこれからも目指してほしいと私は心から思っています。

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