しばらくブログの更新を怠っておりましたが、このたび貴重な経験をいたしましたのでそれについて書き綴ってみようかと思います。
先週末にかけて2日間クリニックを休診させていただき「発作性心房細動および心房頻拍」という不整脈に対する心臓のカテーテルアブレーション治療のため人生2度目で50数年ぶりの入院という経験をさせていただきました。
治療の概要について知識としてはあるものの、私が研修を受けた時代には存在しなかった治療なので詳細についてはわかりません。ですから一般の患者さん同様に治療の詳細や治療成績およびリスクなどについて不安な気持ちで情報収集しました。
約4時間にわたるカテーテル手術しかも途中から左大腿動脈からのカテーテルを追加するという難易度の高い治療をしていただき、確認できた異常信号の発生源全てを仕留めることができ治療の3日後には早くも日常の診療に戻ることができました。
入院中は患者という立場で医療スタッフからいろいろとお世話していただいたのですが、改めて日本が誇るホスピタリティの高い医療を実感しました。加えて超多忙な業務を的確かつ正確に処理をする看護スタッフさん達の能力にも感心いたしました。
そして治療の当日カテ室に入ってまず驚いたのは治療に携わるスタッフと機材の数でした。医師、看護師、臨床工学技士(ME)の総勢10名以上から出迎えられ、大きく立派な血管撮影装置(レントゲン)とずらりと並んだ何台ものモニターには圧倒されました。
私が内科でローテート研修を受けていた昭和の時代では想像もつかない最先端の医療機器とそれを操る熟練した医療チームの光景に、日本の医療水準の高さとそれを少ない経済的負担で誰でも享受可能な我が国の医療保険制度の素晴らしさを改めて実感しました。
ところで昨今は日本の医療保険制度が経済的に崩壊の危機にある事は度々報道されており皆様もご存じかと思います。今後も医療を必要とする高齢者の増加は続くので時代に合わせて制度を改定しなければ近い将来破綻するであろうと私も考えています。
ただし制度改革の選択肢としては給付率を下げる(または軽微な疾患を給付から外す)またはフリーアクセスを制限するという受益者が不利になる方法しか残されていません。
受益者からの反発を恐れて(特に医療のヘビーユーザーである高齢者は人数が多く投票率も高い)選挙で選ばれる立場の政治家はなかなかこの問題に着手できずにいます。
加えて受益者間にも負担できる能力(収入・資産状況)や保険制度の違い(社保・国保・高齢者・医療保護)によって意見の相違が存在するために、大多数の国民が納得できる制度改革など不可能であるといえます。
今年3月に6つの病院団体(日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会・日本慢性期医療協会・全国自治体病院協議会) が行った「2024年度診療報酬改定後の病院経営状況」の調査結果が公表され61.2%の病院が赤字経営であることがわかりました。
消費税問題ひとつをとってみても医療機関は医薬品や医療材料や医療機器という購入するもの全てに関して10%の消費税がかかりますが診療報酬は非課税です。ここ数年は購入する医薬品価格に10%の消費税を加えると保険請求できる金額を超えてしまう(逆ザヤ)状態が当たり前になってしまっています。輸出大企業は消費税還付(輸出売り上げ10兆6千億円のトヨタは5300億円が還付されている)の恩恵を受けているのとは対照的です。
その他に人件費・光熱費・材料費・医療機器全てが高騰しているのに診療報酬は抑制され続け(1989年に消費税が導入されてからというもの消費税相当分さえも補填されていません)、今回私が受けたような高度ですばらしい医療行為の大半はコストに見合うだけの保険点数がつけられておらず赤字になってしまいます。話題のda Vinci手術などは1症例あたり50万円以上の赤字になると言われています。
つまり医療の供給側には満足な報酬を与えていないのにも関わらず現在の医療保険制度は経済的に立ち行かなくなっているという末期状態であり、早急に手を打たないと地域から病院が消えて必要な医療が受けられなくなる事態も起こりえます。
現行の健康保険制度の改定とはいっても社会保険料負担がもはや限界に近い状況で健康保険料をこれ以上増額するのは現実的ではありませんので、例えば①保険診療の自己負担率を上げる(老人の1割負担はさすがに低すぎる)②保険診療の対象となる治療を限定して対象外の自由診療との混合診療を認める等、国民皆保険制度を存続させるには痛みを伴う制度改革を受け入れる覚悟が必要であると思います。
もちろん制度改革の前に不公平のないように保険料未納者に対する対応や医療保護制度における自己負担の再考や日本の保険医療制度にフリーライドすることを目的に入国する外国人の対策などについてはきちんとおこなうべきことは言うまでもありません。
先進国と言われている欧米各国の医療事情を見ると日本の医療制度がどれだけ自由で得難いものかが改めて理解できます。日本では以前から医療を揶揄する言葉に「3時間待ちの3分診療」というのがあります。しかしそれは裏を返せばそれくらい患者さんの希望次第で自由にどの医療機関にも気軽にアクセスできるということなのです。
米国のように常に高額な医療費の支払いが必要になるとか、英国のようにまずは地域の決められた家庭医に受診し(要予約)必要と判断された場合にだけ基幹病院に紹介してもらえる制度では3時間待ちなどという状況は起こりえません。
医療提供側は患者減や収入減を恐れ、制度を制定する政治家は選挙を恐れ(これには民意に逆らうという意味と医師会という組織票に逆らうという2つの側面があります)、患者側は利便性の悪化や負担増を恐れて問題を先送りにすればするほど状況はますます悪化してしまいます。
健康保険制度の崩壊という取り返しのつかない事態になってしまう前に、これらの3者それぞれが相応の痛みを受け入れる覚悟を決めて立ち上がらなければいけない時期が既に訪れており我々に残された時間はあと僅かであると危機感をもって考えています。

