出生率低下の原因を考える

出生率の低下は国民全員が知るところではありますが、その原因はさまざまな要因が複雑に関与していると思われます。今回はそこを少し考えてみたいと思います(今回提示させていただく図表は全て厚生労働省の厚生労働白書より転載しています)。

まず事実確認のために下図にある「出生数、合計特殊出生率の推移」を提示いたします(合計特殊出生率とは15~49歳女性の年齢別出生率の合計の事です)。下図より数年前の第一次ベビーブームでの最高値は出生数270万人(合計特殊出生率4.54)から2023年には出生数75.8万人(合計特殊出生率1.20)まで減少しています。

政府はエンゼルプラン(1994)・新エンゼルプラン(1999)・少子化対策基本法(2003)・待機児童解消加速化プラン(2013)と対策を講じてきましたが、さしたる効果はなく少子化は加速する一方です。それでは何故このような状況が起きているのかを考えてみます。

まず若年世代を中心に非婚傾向が進んでいる事が考えられます。下図に「50歳時の未婚割合の推移」をお示ししますが、婚姻割合が減少すれば出生数も減少して当然です。それではフランスのように非嫡出子も嫡出子と同等の権利を与えたら解決するかというと、私はそのような簡単な問題ではないと思っています。

 

問題はもっと根深い部分にあって、非正規雇用の男女カップルでは両者が働いても子供を育てるに十分な収入が得られない可能性があるばかりでなく、出産後一時的に女性は離職して乳飲み子を養育する必要が生じます。その間に不幸にも男性が派遣切りの憂き目にあったとしたら・・・要するに若者の低収入状態が大きく関係していると私は考えます。

子供にかかる教育費は日本政策金融公庫の調査データによると、幼稚園から大学まで全て公立で自宅通学といういちばん経済的なパターンでも10,556,201円必要であり、全て私立でしかも大学から一人暮らしをした場合は29,501,502円(文系学部・理系学部ではこれよりはるかに高額になる場合もある)とされています。

大卒と高卒の生涯賃金格差は1.29倍とOECD加盟国平均値より小さいのですが、子供の教育や住宅ローン等で出費の多くなる50歳代の10年間に限り役職手当の関係で1.52倍とかなりの格差が生じます。親から高等教育を受けさせて貰った若者は教育費の重要さを体験しているので安易に子供をもうける事に躊躇してしまうのであろうと考えられます。

次に考えられるのは高等教育を受け学識と技能を持った女性が社会進出することが一般的になった事が事由として考えられると思われます。男女雇用機会均等法などを境に、昔の「良妻賢母的な専業主婦」ではなく、夫に経済的依存をせず企業で男性と同等もしくはそれ以上に働く女性が飛躍的に増加しました。このような働く女性にとって家事や育児の負担というものは夫や同居親族の協力が得られなければきわめて過酷であるために無理をしてまで出産する事を控えるようになったのではないかと考えられます。

政府は子育て支援と称して子供手当を拡充や出産時の一時金や子供医療費の自己負担分軽減などをしきりに強調しているようですが、いつ財政難を理由に改定されるかもしれない場当たり的かつ少額の支援を好感して、どこの誰が積極的に子供をもうけようなんて思う事はないだろうという事をきっと理解できていないのだと思います。所詮は一昔前の家事や育児などは専業主婦に全て丸投げして男尊女卑の思考がこびりついてしまったおじいちゃんの政治家の方々が思いつく浅知恵なので仕方ありませんが。

今まで書いてきて私が思いつく少子化対策で最も有効と思われる政策は「希望すれば誰でも無償で高等教育や職業教育が受けられる」これに尽きるのではないかと考えられます。大学は国公立大学だけでも構わないと思いますし、たとえ学部には制限があったとしてもよっぽど辺鄙な所に住んでいない限り自宅から通学可能な場所に地元の大学があります。

学業より実務(手に職)という志向の子供には、例えばドイツのように早期から職業教育を受けられる制度を作ったら良いと思います。現在の中学・高校で教えている画一的な教育では落ちこぼれてしまったら、忍耐力で思春期を乗り切れない限り不登校や素行不良な生徒になってしまいます。昔から「読み書きそろばん」という言葉があるように日常生活では正しい日本語が使えて四則計算ができればなにも不自由なく暮らせます。微積分などを無理に教える代わりにその子供にあった職業訓練を早期から与える方がどれだけ教育的な価値があるか想像に難くありません。

日本の公的教育支出で特に高等教育に対する公財政支出の対GDP比で日本はOECD38カ国中最下位で、ありしかも私費負担は0.9%でOECD平均の倍です。子育て支援でお金を直接ばら撒くよりも公的資金を本気で入れて教育の質と量ともにしっかりと後押しする必要があると思います。教育費の心配だけでも払拭されれば出産を躊躇していたキャリア女性も積極的に子供をもうけたいと考えるのではないかと思います。

少子化対策で大切なのはむやみやたらと人数を増やす事を考えるのではなく、高い知性や技術を持った良質な国民を増やす事だと考えます。今後の化学技術の進歩や国際情勢の変化にしっかり考えて対応できる人材(人財)を確保する事(量より質)だと私は思います。なので少子化対策と称したまやかしで小手先だけのばら撒き政策に反応して増えるような人口であるならむしろ不要と考えるのは私だけでしょうか?

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