新型コロナワクチン接種の重要性について (2021-05-06)

 今年のGWも「緊急事態宣言下」、しかも日本全国でイギリス型変異株(B.1.1.7株)による感染拡大が毎日報道されている状況下で、あまり気の休まらない長期休暇でした。

 現在WHOが「懸念すべき変異株」に指定しているのは①イギリス型(B.1.1.7株・N501Y変異)②南アフリカ型(B.1.351株・N501Y+E484K変異)③ブラジル型(P1株・N501Y+E484K変異)で、N501Y変異は感染力を高める恐れE484K変異は免疫効果が低下する恐れが指摘されています。

 加えてここ数日インドの感染爆発が報道されています。複数の報道においてインドの感染爆発の原因は、大規模な政治集会や宗教行事を不適切に開催してしまったためであり、原因ウイルスの主体はイギリス型であろうと推測されています。

 しかしながら日本人にとって今後の大きな懸念材料となった報道は、新たなインド型変異株(B.1.617・L452R+E484Q変異)がWHOによって「注目すべき変異株」(懸念すべき変異株の1段階下)に指定された事です。

 東京大や熊本大などの研究チームであるG2P-JapanはL452変異が日本人の6割が持つ白血球のタイプHLA-A24がつくる免疫細胞から逃れる能力があるという実験結果を発表しています。6割の日本人がインド株に対して免疫低下の可能性があるというのです。

 新型コロナウイルス感染症の患者数や死亡者数が欧米各国とアジア地域各国で大きく異なる理由に、いわゆる「ファクターX」というものがあるのではとされていました。

 遺伝的にヨーロッパ人とアジア人の免疫特性の違いで、アジアでは以前から(中国由来の)コロナ型ウイルスの流行が多かったのでコロナ系ウイルスに対する「交差免疫」があるという説や、アジアにはBCG接種を義務づけている国が多いので結核菌などの呼吸器系疾患に対する「訓練免疫」があるという説です。それらによってワクチンのような「獲得免疫」がなくても自然免疫でコロナに対応が可能で感染が少ないのではないかという仮説です。

 感染力の強いイギリス型変異株で感染拡大がみられている日本で、さらにファクターXが通用しないインド型変異株の流行が起きたらと仮定すると、今までのような感染者数では済まなくなり比例して死亡者数も増加する可能性は否定できません。

 年齢的にもイギリス型変異株によって若年者にも感染しやすい状況が起きているところに、さらにファクターXが通用しないインド型変異株の流行が重なるような事になるとしたら「若いから大丈夫」という通説はもはや過去のものになる危険性があります。

 このような状況下で危機を回避するには一刻も早いワクチン接種が求められると考えられます。もちろんワクチン接種は100%感染を防ぐことはできませんが、感染率を格段に低下させることは今までのデータで明らかにされています。ワクチン接種後に感染することを「ブレイクスルー感染」と言いますが、米国CDCによってその効果が公表されています。

 ワクチン接種をした7700万人のうち①感染者5800人②重症者396人③死亡者74人つまり①感染者0.008%②重症者0.0005%③死亡者0.0001%であり、ワクチン接種の効果は極めて高いと判断されます。問題のインドにおいてインド医学研究評議会(ICMR)が発表した「ブレイクスルー感染率」は0.02~0.04%と米国CDCデータより高いのですが、米国はファイザーとモデルナ製ワクチンでインドはアストラゼネカ製ワクチンであるので効果に差が生じている可能性もあると思われます。ちなみにファイザーワクチンの共同開発者であるビオンテック社(ドイツ)は、現在確認できている30種以上の変異株において同等の予防効果を確認していると公式発表しており、その中にはインド変異株も含まれています。

 ワクチン接種において副反応が怖いので接種を見合わせたいという人も少なからずいると思います。特に欧米の報告に比べて10~20倍多いアナフィラキシーの報告がSNSなどで拡散されて、あまり医学知識のない若年層に過剰に恐怖感を与えているようです。

 これはアナフィラキシーの診断基準の差異による部分が大きく、欧米は「ブライトン分類」いうものが用いられ厳格に診断されたもののみが報告されています。「ブライトン分類」では①皮膚症状(蕁麻疹などの発疹)②循環器症状(血圧低下・意識障害・頻脈など)③呼吸器症状(気道閉塞・頻呼吸など)④消化器症状(下痢・嘔吐など)のうち2項目以上みられた場合とされています。日本はそのような厳格な基準なく報告されていることから多く報告される傾向にあると言われています。

 加えてまだ国内のデータは先行接種された医療従事者のものです。ファイザー社のワクチンにはPEG(ポリエチレングリコール)という成分が含まれているのですが、これが原因のひとつと考えられています。PEGは界面活性剤・乳化剤・保湿剤として化粧品に含まれるので女性に多く生じる可能性が高く、またPEGは下剤や整腸剤・錠剤の表面コーティング・潤滑剤・超音波ジェル・軟膏・座薬・デポ剤・骨セメントなどの安定剤としても使用されているので医療従事者では感作されている人の割合が高いと推測されています。

 したがって、①日本でアナフィラキシーとして報告された中には本当のアナフィラキシーではない症例が相当数含まれている②医療従事者ではアナフィラキシーの頻度が高い可能性があるという事を加味して数字を評価し、冷静に接種を判断していただきたいと思います。

 その他アナフィラキシー以外に報告された国内での副反応は厚生労働省の研究班がまとめられて厚生労働省の専門家部会で報告しています。それによると①接種した場所に痛みが出た人は1回目接種後92.9%・2回目接種後は92.4%で接種翌日に痛みを感じる人が多い、②けん怠感があった人は1回目接種後23.2%・2回目接種後は69.3%、③頭痛があった人は1回目接種後21.2%・2回目接種後は53.6%、④37度5分以上の発熱があった人は1回目接種後3.3%・2回目接種後は38.1%となっています。年代別では2回目接種後に発熱があった人は20代の51%に対して65歳以上が9.4%、けん怠感があった人は20代で76.8%に対して65歳以上では38%と若い世代で頻度が高い傾向が見られました。

 以上のように現状では重篤な副反応はあまり心配なく、接種をしたことによって得られる利益の方が大きいと考えられています。なお一般的な医薬品では欧米と日本で投与量が異なる(日本の方が少量)場合が多く、現状のワクチン投与量が日本人に対しては少し過量なのではないかという意見もあり、この点からも国産のワクチンの早期承認が期待されます。

 以上をまとめますと、まず当面の危機を回避するためにはワクチン接種が極めて有効であり、可能な限りワクチン接種を速やかに推し進める事が最重要課題です。それと並行して現在開発中の国産ワクチンを早期に承認し、翌年以降の流行や変異ウイルスの出現に自国で対応できるように備える事。加えてこれも現在開発中の治療薬を完成させ、早期承認できるように薬事承認制度の見直しや資金的な援助を政府にぜひ期待したいと思います。

←新しい記事へ ↑一覧へ 以前の記事へ→

薬院高橋皮ふ科クリニック 福岡市中央区薬院1-5-11 薬院ヒルズビル2F 092-737-1881